2020年11月16日月曜日

脊椎感染症(途中)

1)疫学

・50歳以上に多く、男性は女性の二倍の罹患率

・血行性が51%、医原性も多い

外傷や整形外科手術による直接浸潤、近くの軟部組織からの連続性感染

・血行感染のリスクファクター

糖尿病、心疾患、透析、免疫低下、癌、静注薬物使用、血行感染、変性疾患


・起因菌

S.aureus(48%)E.coli(11%)Streptococcal species (9.4%)CNS(2.7%)Pseudomonas auruginosa(2.0%)

→比較的健常患者のMSSA菌血症を見た場合には疑ったほうが良い。


2)所見、検査

・初期症状:脊椎関連痛86%、発熱が35%~60%(52%)、(当初から神経症状を出す症例は稀であるが、劇的な症状を出す場合もある)

・夜間痛が酷い傾向


病歴、身体所見、血液検査を総合的にみて疑うべき

疑うべき重要な所見

新規または悪化する腰痛、頚部痛

CRP,ESRの上昇 80%以上

発熱(頻脈)or菌血症or感染性心内膜炎

神経学的異常所見(背部痛はあってもなくてもよい)

MSSA菌血症フォロー中の新規局在性の背部痛

感染の可能性がある高齢患者が安静時の背部痛を訴える(叩打痛は20%しかない)


ERでは疼痛の程度が、鎮痛剤、マックスベルト、トリガーブロックなど使用後にも継続して痛く、下肢症状がある、寝返りすら困難等の激痛があれば疑わしい指標になる。


血液検査

血液検査で臨床上有用なものはCRPESR2つで、診断への感度が高く、CRPは治療に対する反応にESRより相関する。

☆意外とALPは上がりにくく、上がっている場合は重症の時が多い。


血液培養 陽性率58%(30-78%)

血行感染が最多であり、起因菌を同定するために必要で、陽性であれば侵襲的な検査(膿瘍の穿刺や椎間板穿刺)を避けることができます。必ず2セット(感染性心内膜炎の合併が疑われる場合は3セット)採取。


血液培養が陰性の時、

膿瘍穿刺ドレナージ

膿瘍の合併は、硬膜外膿瘍(17%)、傍脊柱管膿瘍(26%)、椎間板膿瘍(5%)とされている。膿瘍がある場合、CTガイド下ドレナージを施行する。

椎間板穿刺

椎間板にまで感染が波及している場合は椎間板穿刺で起因菌を特定、各種培養検査が陰性の場合CTガイド下生検が勧められる。

  →上記は19Gの金属製椎間板造影針やマルク、胆嚢ドレナージ針各種を用いる。

CTガイド下骨生検

椎体骨生検組織の培養は血培よりも診断がより確実で、培養陽性率77%である。肉芽種の存在はブルセラ症や結核を想起する。


注)昨今、αディフェンシンを使用するという文献も散見されるが、現状は研究試薬扱いのままである。


画像検査





単純X

3-6週間経過した化膿性脊椎炎では椎体終板のerosion(侵食像)所見を認めることがある(感度は低い)。

早期診断には有効ではない。


CT

造影CTを撮影する。全身膿瘍検索に有用で、Sag., axi., cor.を再構成する(特に、腰椎に隣接する腸腰筋(大腰筋)や脊柱起立筋膿瘍の除外のためにcor.を確認する)。腎不全の場合は、単純CT、心エコー、腹部エコーを利用する。

原則、先行する骨折、変性変化(変形性脊椎症、椎間板輝度上昇、骨硬化像、すべり症など)がある部位に細菌感染が起こるため、CT所見と激痛や圧痛部位が一致する場合にはそこを重点的に疑う必要性がある。


MRI

脂肪抑制T2WISTIRが骨髄の浮腫の描出に最も有効。早期診断に有効でsag. axi. cor.で範囲の特定をする。また、初診時に否定的であっても、1~2週後に画像検査で陽性となる場合もあること、特にMSSAでは症状進行が早いため、通常1ヶ月後のフォローを隔週撮影で検査と治療評価を行う必要性もある。

頭蓋内膿瘍の除外に頭部MRIを考慮することもある。


注)見逃しやすい化膿性椎間関節炎のMRI所見

L2/3化膿性椎間関節炎が後方に排膿し、脊柱起立筋に膿瘍形成が見られる。Sag.では診断しにくく、STIR axi.を必要とする。以前は稀な疾患と言われていたが、STIRの高速撮像が普及して診断数が増加。

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①頻度 化膿性脊椎炎のうち4%

②好発年齢 中高年

③好発部位 腰椎(97%)

④契機 菌血症後、免疫不全者

⑤原因菌 黄色ブドウ球菌(81%)

⑥症状 腰背部痛(97%) 、発熱(70%) 

⑦関節腔が狭く、関節腔の上下極に孔があるため、硬膜外膿瘍および傍脊柱筋膿瘍合併の頻度が高く、一部で治療成績が不良

⑧透視やCTガイドで穿刺吸引、ドレナージチューブ留置がしやすい

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Halpin et al. JBJS 1987, Muffoletto et al. Spine. 2001, Doita M et al., J. spinal disord. Tech 2007, Narvaez J. et al., Arthritis Rheum. 2006


注)化膿性椎間板炎の早期診断法としてPET/CTが推奨されており、当院はMRI 拡散強調画像(DWIBSを撮像することで代用。撮影方法で記載すると撮像が可能です。


3)治療/抗生剤

 抗生剤効果判定は23日後の白血球数減少度によるとされている。CRPは一般に一度上昇してから軽減する。


1)エンピリックな抗菌薬選択の考え方

・セファゾリン(CEZ2g 8時間毎 静注

通常起炎菌はグラム陽性球菌感染のことが多く、CEZを選択する。

・セフトリアキソン(CTRX2g 12時間毎 静注

 グラム陰性桿菌が否定できない場合

安静臥床とCTRX長期投与が胆石形成促進させて、胆管炎を起こす可能性が否定できないので注意

(→効果不十分で、GM40mg 12時間毎を追加することがある。)


2)培養結果に基づいた抗菌薬選択

①が第一選択、②以降は第一選択薬がアレルギー等で使用できない場合に考える。


(下記、日本抗生剤容量に変更しているが、随時ガイドラインやDI確認の上使用を。)


MSSACNS 

①セファゾリン(CEZ 2g 8時間毎

②レボフロキサシン(LVFX 500mg 12時間毎 経口 + リファンピシン(REP 300mg 12時間毎 経口

③バンコマイシン(VCM 1g 12時間毎 静注 (トラフ値は15-20ug/ml


アミノグリコシド併用はゲンタシン(GM)40mg 12時間毎追加が多いが、推奨量の明記なく検索中。


MRSA

①バンコマイシン(VCM 1g 12時間毎 静注 (トラフ値は15-20ug/ml

②ダプトマイシン(DPM 6mg/kg 24時間毎 静注

③リファンピシン(RFP 300mg 12時間毎 経口  + レボフロキサシン(LVFX 500mg 24時間毎 経口

④リネゾリド(LZD600mg 12時間毎 静注or経口


ただし、MRSAの場合はVCMの骨髄移行性が悪く、整形外科・放射線科にドレナージを要相談。また、VCMでは治しきれないという報告も非常に多い。日本ではDPC入院施設ではMRSA性骨髄炎の病名分岐があるものの、抗生剤価格が一日入院料を超える可能性があることも留意する必要性がある。

整形外科領域では、脂溶性抗生剤の初期使用による骨髄内移行性を重視した抗生剤選択や、DNA阻害薬の併用を提唱する骨細胞内寄生をMSSAがするため治療後の再燃が起こりえる等の報告がある。1997年にRFP併用治療が治療期間を短縮するという報告があり、基本的に併用が推奨されてきたが、現在ではRFP+LVFXやMINOなど低価格の抗生剤併用を骨髄炎対策に推奨するという声もある。いずれにせよ、エビデンスやコンセンサスに乏しい状態である。

※RFP+LVFXの組み合わせでMRSAの治療ができない場合もあるため、MICを確認することを重々検討する。


Streptococcal species  

①ビクシリン(ABPC2g 6時間ごと

②セフトリアキソン(CTRX 2g 12時間毎 静注


※時折、MSSAと同時に発見されることもあり、その場合はABPC/SBT3g q6hにて投与が可能。内服抗生剤もあり。


Enterobacteriaceae

①シプロフロキサシン(CPFX 750mg 12時間毎 経口

②セフトリアキソン(CTRX 2g 12時間毎 静注

Enterobacteriaceae(ESBL) 

①イミペネム(IMPM 500mg 6時間毎 静注


※なぜか経験則的に治療が奏功しない、再発することが多い。尿路系の閉塞やカテーテルの問題が無い場合で治療効果が出ない場合には重複抗生剤投与も早めに検討した方が良い。


Pseudomonas auruginosa

①セフェピム(CEPM)、セフタジジム(CAZ 2g 8時間毎 静注 + アミノグリコシド2-4 静注考慮 

  →その後シプロフロキサシン(CPFX 750mg 12時間毎 経口

②ピペラシリンタゾバクタム(PIPC/TAZ 4.5g 6時間毎 + (アミノグリコシド2-4 静注考慮) 

  →その後シプロフロキサシン(CPFX 750mg 12時間毎 経口


アミノグリコシドはゲンタシン(GM)40mg 12時間毎追加が多いが、推奨量の明記なく検索中。


Anaerobic flora 

①クリンダマイシン(CLDM 300-600mg 6-8時間毎 静注

②ビクシリン(ABPC2g 6時間ごと

③セフトリアキソン(CTRX 2g 12時間毎 静注(Propionibacterium acnesに対して)

④メトロニダゾール 500mg 8時間毎 経口


治療期間 原則点滴抗生剤6週間

感染性心内膜炎(IE)や膿瘍の合併がある場合はより長期間の抗菌薬治療を検討し、一部の半永久的抗生剤投与指定の菌注意

治療後2週、4週後に効果判定を行い、臨床所見(発熱、疼痛)改善ない症例やCRP 3/dl が持続は不十分

経過良好でもMRIは初期に病変部が増大するため、発症2週までは病巣拡大傾向があることを留意する。


注)MSSAの場合には、他部位の膿瘍除外目的に脳MRI、造影胸腹部CT、心エコー(IE除外)の実施が望ましい。


治療/装具

原則は、該当箇所の体幹ギプスやハードコルセットで治療を行う。高齢者の場合には活動性も低いため、褥瘡対策でジュエットコルセットを用いても良い。


☆椎間板炎や関節炎は患部固定による安静も炎症反応沈静化に重要であり、不安定性が継続する場合には内固定術を検討する。


治療/安静度、リハビリテーション

原則は、硬性コルセットが来るまではベッド上安静、棒状体交とする。シャワーなども圧壊予防にストレッチャー浴が良いかと考えられるが、骨髄炎拡大や硬膜外膿瘍がないなど限られた場合には通常範囲内で座位となっても問題は無いと考えられる。


治療/手術

手術(外科的治療)が必要になるのは10-20%とされる(2012  Int Orthop)。近年はMISTが推奨されており、一部では固定力による抗生剤投与の効果が優れるため発症初期より固定術をするという見解もある。内視鏡下洗浄掻爬を初期の段階で実施し、骨髄炎にならない様予防するという見解もある。いずれにせよ、徐々に検査所見からの発症初期で予後を判断できるエビデンスを検討している段階である。


髄膜炎併発になった場合には50%以上の致死率になり、髄液ドレナージ等も必要となるが、基本的には黄色靱帯による血流良好な組織がバリアとなり、髄液内進行は阻止されることが多い。逆に、軟部組織を伝い、上下椎体や腹腔内へと広がる傾向にある。


手術適応 (2010 NEJM、他研究会情報など)

  1. 抗菌薬治療が効いていない場合(3椎体以上CEZが無効化する場合やMRSA等多剤耐性菌の場合)
  2. 神経学的所見、脊髄圧迫所見がある場合
  3. 硬膜外膿瘍、傍脊椎膿瘍、腸腰筋膿瘍がありドレナージを要する場合
  4. MRI STIRにおける椎体骨髄炎領域が3割以上で圧壊予防の後方固定検討
  5. 大きい膿瘍腔比(高齢で膿瘍腔比20以上では不安定性有り後方固定術の追加検討

また、培養結果が不明な際にも骨生検同様に実施。


☆アライメントと神経症状の程度に関して、詳細分類はAOSpine Thoracolumbar Spine Injury Classification Systemに準じる。

☆化膿性脊椎炎がおこると骨脆弱性を起こし、MRI STIR浮腫像を来す脊椎が圧壊を起こす可能性がある。経過中にも離床や転倒に応じてXpで再評価が必要であり、選択的手術適応はTL AOSIS4点以上の場合とする。

☆手術時の抗生剤入り洗浄や抗生剤散布、骨髄点滴など整形外科領域での局所抗生剤治療法の併用について、まだ大きなエビデンスがあるとは言えず、最新ICM on Musculoskeltal infection内のコンセンサスでも一部言及はあるものの効果はよくわからないようだ。



予後

抗生剤の治療期間は、外科的治療でのデブリードマンで全て治療した場合には起炎菌にもよるが、2週間程度とされる。6週を超えても効果は変わらないとされているが、起炎菌と感染範囲に依存し、具体例としてMSSAなどは半永久的投与が必要な場合もあり、血沈陰性化や画像所見にもよる。現状では再発予防で内服抗生剤を使用する例がほとんどである。バイアバイラビリティを考えての変更投与を推奨している。

死亡率は0-11%と報告されている(2012 Eur Rev Med Pharmacol Sci)。


範囲が大きい場合には死亡率が30%以上になるという報告もあるが、基本的には他の菌血症性感染症よりも予後が良いとされる。

(これには感染対象者が元々他の感染巣である場合よりも健康である場合も含まれることが多い要因も含まれる可能性があり、単純には比較できない可能性がある。)


骨への影響は治療がうまくいっても1-2年と言われており、上述の通り感染症治療における菌血症の起炎菌によって抗生剤投与期間は著しく変更せざるを得ない。


患者説明では、単純レントゲンでの改善は時間がかかることを最初に説明しておく。

診断見逃しによる賠償金額は後遺症が残る場合には数千万円におよび、疑わしければ患者への早期説明をし、何度もfollow upをすることが重要である。特に2週後の画像検査で発覚することも多々あるため、認知症や意識障害の疑いのある患者本人の愁訴が聴取できにくい患者には入院させての経過観察を推奨する声もある。



真菌性脊椎炎

(文献検討中)


1)疫学


原則、手術適応で長期間の抗生剤治療を要する。


2)所見、検査



真菌

1)酵母様

Candida【神経症状があれば手術適応】

原則:フルコナゾールDiv/oralbioavailabilityは良好で約90%、移行性も良好)

椎間関節炎:6週間フルコナゾール(FLCZ400mg/day

椎間板炎、骨髄炎:6~12ヶ月フルコナゾール(FLCZ400mg/day

  1. ファンガード(MCFG) 300mg /day 4738円/瓶
  2. アムビゾーム(L-AMBアムホテリシンB250mg/day 1時間かけて 9904円/瓶

最低2週間Divで治療、フルコナゾールへ変更、CVCバイオフィルム形成があればこの限りでは無い


Candida属の抗菌剤感受性


FLCZ

ITCZ

VRCZ

MCFG

L-AMB

備考

C.albicans

S

S

S

S

S

40-60%

C.tropicalis

S

S

S

S

S

10%

C.parapsilosis

S

S

S

S

S

20%

C.glabrata

S-DD to R

S-DD to R

S-DD to R

S

S to I

20%

C. krusei

R

S-DD to R

S

S

S to I

2%

C. lusitaniae

S

S

S

S

S to R



C.albicansのバイオフィルムによるMIC影響


通常

Biofilm形成

FLCZ

1

>256

VRCZ

0.5

>256

AMPH-B

L-AMB

0.5

0.5

4

0.25

ABLC

0.25

0.25

CPFG

0.125

0.25

MCFG

0.001

0.25



Biofilm形成株かどうかは外注検査で確認ができます。


Cyropotococcus


2)糸状菌

Aspergirus 【手術(デブリードマン)絶対適応】、接合真菌





参考文献(ちょっと抜けてるかも)


Uptodate, Vertebral osteomyelitis and discitis in adults 10 2020

Second International consensus meeting on musculoskeltal infection

IDSAガイドライン  Clin Infect Dis (2015) 61 (6): e26-e46. 

N Engl J Med. 2010 Mar 18;362(11):1022-9.

Lancet. 2015 Mar 7;385(9971):875-82.

Int Orthop. 2012 Feb;36(2):397-404.

Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2012 Apr;16 Suppl 2:2-7.

レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 脊椎、骨髄炎

DWIBS研究会(http://bodydwi.kenkyuukai.jp/special/index.asp?id=25466)資料より

PAPPAS, P. G., et al.: Inf. Dis. Soc. Am. 48: 503535, 2009

KUHN, D. M., et al.: Antimicrob. Agents Chemother. 46: 17731780, 2002